家の中の熟練者の技能学習

小松原明哲 (金沢工業大学 人間情報工学科/経営情報工学科)

はじめに

家庭生活にも様々な技能が必要である。例えば、食器洗い、雑巾がけ、アイロンがけ、裁縫、米とぎ、炊事などの家事である。家事は往々にして``つまらない''ため、道具の人間工学的改善を超え、自動機械化、外注化されてきており、将来的には趣味性のあるもののみ家庭の中に残るといわれている。このため、家庭生活は技能要らずの傾向にあるが、しかし皆無になるとも考えられない。一方、従来、家事技能は親から子(母親や姑から娘や嫁)へと、徒弟的に引き継がれていたが、昨今、家事を親から教わる機会は非常に少なく、勢い、現状では必要に迫られての我流対応となりがちである。しかも家事ではそこそこ結果が達成出来れば満足されがちであり、もっと上手にやろう、という意欲も湧きにくい。また、学習手引きとなる他人の家事行為を見る機会も少ないため、我流が固定化されてしまうことも多い。大げさかもしれないが、このような技能に対する関心の薄さ、生活態度が、日本のもの作り技術の弱体化を招いていると言えなくもない。家庭においても職場においても、徒弟的技能育成が困難となる以上、それなりの技能を短期間に育成する必要があり、そのための技能育成方法の検討が必要となる。

技能の育成実験

伝統工芸等の職人へのヒアリングをすると、職種を問わずに、ベテランの条件として、「理想イメージの構築」「現状と理想とのギャップの把握」「理想イメージを実現するために、先を読んで作業を行う」などを指摘し、「理想イメージの構築には、他の職人の制作したものや仕事振りの観察」が重要という。このことをヒントとして、次の実験を行った。

(1) 所定数食器をベテラン主婦に洗浄してもらい、この時の行為をビデオ収録し、刺激教材とする。

(2) 食器洗浄の経験の乏しい学生をAB群に分け、A群には、毎日所定数の食器洗浄を単に繰り返させる。B群では、その被験者の食器洗浄の様子を毎日ビデオ収録する。

(3) B群の被験者には、その日の実験前に、前日の自分のやり方と、刺激教材のビデオを見せ、刺激教材を参考に、自分のやり方を評価し、今日の目標を立てさせてから、洗浄実験に取りかからせる。

(4) 実験の結果、B群はA群に比べ、自分なりのやり方を工夫して早期に学習が進む傾向が見られた。また、実験への取り組みの内発的意欲が刺激される傾向が見られた。なお、B群の「今日の目標」には、「一つ一つの食器洗浄の仕方」のほか、「水切り篭にうまく収められるように小物から洗い出す」など、先を見通しての作業方法の生成などの内容も含まれていた。

まとめ

家庭の中であろうと職場であろうと、技能の獲得過(技能の認知発達過程)それ自身に違いがあるとは思われない。その過程を明らかとし支援することで、より効果的な技能育成が図られると期待される。

【謝辞】

本研究は経済産業省産業技術基盤研究開発プロジェクト「人間行動適合型生活環境創出システム技術」として、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受けて、社団法人人間生活工学研究センター(HQL)を通して実施したものです。