食事は、日常的に繰り返されるごくありふれた生活の一部にすぎない。しかし人間の食事は多様な意味をもっている。栄養を摂取する・健康をつくる/たもつ・味覚を楽しむ・雰囲気を楽しむ・相手と会話する・相手と親しくなる・食の伝統を伝える・季節感を感じるなど、食事は、ただ単に栄養を満たすだけの活動ではない。
ここでは、離乳したばかりの1歳から3歳までの子どもとの食事場面において、食事技能の習得がいかになされているのかを手がかりとして、家での学習を考えたい。
(1) 1〜3歳児の食事: 1〜3歳という時期は、ほぼ親によってfeedされている食事から、子どもが道具を使い自立して食べられるようになるまでの時期。母親としては、とりあえず食べ物を食べさせたい。できればこぼさずきれいに食べてもらいたい。箸やフォークといった道具の使い方も覚えさせたい。注意ばかりしないで、楽しい会話をしながら、団欒の場として食事をもちたい。食べ物のことも話したい。しかし現実には、子どもは食べない。せっかく作ったおかずを、ペッと吐き出す。こぼす。皿のなかで、ぐちゃぐちゃにかきまわす。席を立つ。歩き回るなど、なかなか思うようにいかない。 母親にとって、幼児との食事での最も大きな目標は、``とにかく食べさせること'' だが、他の様々な社会文化的期待(バランスよく食べる・道具を使って食べる・行儀よく食べる・楽しく食べる)が、同時並行的にサブ目標としてある。母親は、子どもの状態(食欲・道具の習得程度)に応じて臨機応変に働きかけをかえ、食事技能の習得を導く。
(2) ルーティン: feedされている場合、食事場面でのやりとりは、「はい(注意をひく)→あーん(feed)→おいしい?」というルーティンが主になる。徐々に、道具の使い方、食べ物に関する情報がさしはさまれ、3歳になる頃にはこのルーティンは消滅し、空腹から満腹へという生理的状態の移行を軸とした、「いただきます→食べる(会話する)→ごちそうさま」という大きなまとまりとなる。
(3) 道具: 幼児用のプラスチックの皿(あるいは、コレールなどの割れにくい皿)、握りやすいスプーンなど、技能の習得を容易にする道具。簡単に席をたてないようになっているベビーチェアは、食事場面での子どもの行動を制限することによって、食べることへの注意の集中を助ける。食卓の周りに敷き詰められた新聞紙は、子どもに、自分で食べること、道具を使うことを奨励するメッセージを伝える。
(4) 家での学習: 母親は、子どもの能力にみあわない挑戦や失敗をある程度許容する。たとえば、スプーンの使用に興味を示し始めた子どもに対し、数回の挑戦は奨励する。しかしあまりに大きな失敗は許さない。せっかくスプーンでスープをすくっても、皆こぼしてしまうようなら、母親はスプーンを隠してしまいfeedに転じる。食事場面での技能の伝達に限らず、家での仕事は、一般的にいって、失敗が大きな経済的損失に直接つながるわけではないので、子どもの参加による仕事の停滞はある程度許されている。家事手伝いへの参加は、責任感や自立性の獲得という面から奨励されていることでもある。しかし、仕事の停滞も度が過ぎると、あとあとかなりな面倒が生じるので、それは許されない。家事はできれば速やかに片付けたいものであり、家での生活技術の学習---たとえば、食事の用意、食器洗い、洗濯、掃除のお手伝い---は、こうしたバランスの上でなされる。