春のコースが終わったのは、7月4日のことでした。若干時間を延長して、受講者の皆さんが帰ったあとで、一緒に仕事をしてくださった多摩美の方々と「ふうっ」と一息ついているときでした。建物を管理しているガードマンの人が「そろそろ鍵を締めますから出てください」と言いながら部屋に入ってきたのです。私たちが「すみません」とあわてて片付けていると、作品を見て「これ、なんですか?」と興味ありそうな様子。
かくかくしかじかで、成城の地図を舞台にいろいろな思い出を形にしたんですよ、と話すと、このIさんは興味を持たれたようで、地図をのぞき込んでいます。「あ、私のうちはここだ・・・私は生まれてからずっとここに住んでいるんですよ・・・昔はこの辺の川もきれいで・・・」という話になりました。
それはいい話、というわけで、それをのぞき込んでいるIさんの写真も撮って、カードも渡し、ぜひ何か書いてくださいとお願いしました。(一月ほど後になって、そのカードをいただきました。展示してある作品には、Iさんのカードも貼ってあります。)
これは、私にとっては印象的なエピソードになりました。この春の講座が、思い出についての座学(たとえば、「人にとって思い出とは何か」)であったとしたら、きっと部屋を出てくれと言われたときにIさんはのってこなかったのではないかと思うんです。たとえば、「あ、すみません、今までここで成城の思い出についての話をしていたところなんですよ」と言ってもね。でも、具体的にモノが目の前にあり、そしてそのモノが自分の生活に関わるものであるからこそ、身を乗り出してくれたのだと思っています。
やはり、具体的なモノという形で作り出すことは重要ですね。